金とハンコの重要性
大手の監査法人にいた時にはあまり意識しなかったけれども、個人の会計事務所に勤めるようになってから、非常に気を使うようになったことがあります。
それは、次の事柄です。
1.ある一つの仕事をするには、一定の期日までに資金を用意し、きちんと払い込んでいなければならない。
2.会社の外部の人との取引については、正式な印鑑を用意し、押印をしなければならない。
「なんだ、そんなことか。それなら、中学生だって知ってるよ!」
もし、このように軽く考えているとしたら、それはとても甘い認識です。
言葉だけなら、私だって知っていました。
しかし、「ただ知っている」というレベルと、「それを現場で確実に実行する」ということは、
全く別の次元の話なのです。
こんなことがありました。(話は脚色していますが、ご了承ください。)
大阪に住むある個人の資産家Y氏が出資している、㈱A社(本社は東京)という会社の一部門に、
文化事業部がありました。こんど、この文化事業部をもとの会社から分離し、5千万円の資本金を
事業資金として、新たに文化事業を専門に行う㈱B社という会社を設立することになったのです。
㈱A社
文化事業 ㈱B社
部門 分離
新規設立
(資本金5千万円)
資産家のY氏50%と㈱A社50%の構成になります。
㈱A社 2,500万円(50%)
(本社:東京) ㈱B社
(本社:東京)
2,500万円(50%)
Y 氏 資本金5千万円
(住所:大阪)
ここで、株式会社の設立の手順について、ごく簡単に触れておきます。
まず、①会社の名前である「商号」、何をするかという「営業目的」、
当初の開業資金となる「資本金」や本店の住所などについて決めます。
次に、②役員と出資者(株主)を誰にするか決めたら、会社設立の日の数日前には、
5千万円全額の払込が確実に行われるよう、入念に先方の資金繰り状況について打合せします。
一般に、会社を設立する日は、縁起をかついで「大安の日」を選んだりすることが多いのです。
結婚式の日取りを決めるみたいで面白いですね。
あるいはこんな方もいらっしゃいました。
「語呂がいいので、平成11年11月11日に会社を作ってください」
この依頼は、4日前の11月7日の夜にあった話です。この時は、ずいぶんとあわてたものです。
今では笑い話ですが……
話は横にそれましたが、いったん設立の日を決めると、それは仕事の「納期」となります。
当然、その日をゴールに見立ててスケジュールを組むわけです。
そのさい、設立の数日前までに、いちど決めた資本金の額が払い込まれていないと、
会社設立が予定日に間に合わなくなってしまい、大変なこととなります。
したがって、出資者であるY氏と㈱A社には、払込の期限を正確に伝えなければなりません。
もちろん、金額も、2,500万円ずつというとても大きな額なので、用意する方も大変です。
したがって、スケジュール決定の責任者となった私は、まだ慣れないこともあり、非常に緊張しました。
また、その他に大事なこととして、役所に提出するための書類を、法律の定めに従い作成するという
業務があります。もちろん1字1句、細心の注意を払って記載します。万が一、依頼者である㈱A社や
Y氏に見せる時に、少しの不備があったとしても、それは専門家として許されません。
なぜなら、提出書類には、出資者が役所に届け出ている「実印」という大事なハンコを押すことになるので、押印後に間違いがみつかったとしても、そう簡単にもう一度、というわけにはいかないのです。
ましてや、Y氏のように、遠い大阪に住んでいるような場合、わざわざ実印をもらいに
こちらから書類を持って出向いていかなければなりません。それには先方のスケジュールのやりくり、
長い移動時間と高い旅費など、ハンコ1つにとても大変な手間をかけるわけですから、
「やり直し」は、事実上あり得ません。
今の話は、会社を設立するという、特殊な事例ではありましたが、資金の手当てと実印が
必要な大事な取引には、さまざまなものがあります。
たとえば、会社が所有する株式を売却した時などは、法律の要件に照らして、
「有価証券の売買契約書」を作成します。
株式の売買は、通常百万円単位から、数億円単位まで、はんぱではない多額の取引になりますから、
株式を買う側としては、売買の日付にあわせて必要な資金を用意しておかなければなりません。
また、重要な契約書類ですから、取引の当事者の実印を押すのが通常です。
その時にも、売り手と買い手が近所に済んでいる、なんて都合の良いことはそうめったにありませんから、
やはり事前の入念な段取りは不可欠なのです。
つまり、企業が出会うさまざまな場面で、いつまでに資金を用意し、いつまでに実印を持ち出して
契約書などに押すかということが、いかに重要かお分かりいただけたと思います。
「金とハンコ」は、いろんなところで重要なのです。
■お勧めCD/DVDセミナー
Powered by
Movable Type 3.33-ja