公認会計士物語 > 第04章 新人時代のジレンマ> 「先生」と呼ばれることの歯がゆさ

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「先生」と呼ばれることの歯がゆさ

監査の現場に出ると、1日に3回以上は、会社の人から「〇〇先生」と呼ばれます。
これは、会計士補であっても、です。

はじめのうち、私は、この「先生」という響きが好きでした。
やはり、正直言って自尊心をくすぐります。しかし、そんな甘い気持ちは、間もなく消えてしまいました。
公認会計士2次試験では、会社の経理実務に関することまで問われませんので、
当然そのあたりの知識は全くありません。それでも人は私たちを「先生」と呼びます。
そして、「先生」、つまり先を生きているはずの人間である以上、
会社の人に知識面で遅れを取ることは、本来ないはずです。

このあたりのギャップが、とてもいやに思えた時期がありました。
「すみません、このあたりの実務について教えていただけますか?」
「わかりました。それじゃあ柴山先生、簡単なところからご説明いたしますね。」
こんなやりとりが時々ありました。教わりっぱなしの先生とは、何とも情けない話だ、
などと思いながら……

そういえば、2次試験の受験生時代に、こんな笑い話を聞いたことがあります。
ある会計士補が、売上取引の監査手続を行うため、会社の人に尋ねたそうです。
「売上代金として回収した約束手形などは、どこにありますか?」
「はい、当社の金庫に保管してあります。」
「そうですか。それでは金庫の中にある手形を拝見させてください。
あ、それから売掛金(未回収の売上代金、『飲み屋のつけ』もその一種です)も一緒に見たいのですが……」
「はあ?」
まるで漫才のような話です。

手形というのは、現物の証券ですから金庫にあるでしょうが、
『売掛金』というのは、いうなればあとで代金をもらう約束ですから、それを目で見ることは不可能です。合格率6%そこそこの難関試験を突破したまでは良かったのですが、
売掛金に何か形があるのかどうか、というあまりに当たり前のことは、
深く考えずに勉強してきたのですね。

今のは余談ですが、ある時期、特に自信がもてない新人の頃は、
実力と「先生」という呼び名とのはざまで居心地の悪さを大いに感じることがあります。
そうはいっても、「私を『柴山さん』と呼んでください!」とはカッコ悪くて言えません。
そこで、私は途中でこう考えることにしました。

会社の人に先生と呼ばれたからといって、全てにおいて格好をつける必要はないんだ。
会社の実務は謙虚に教わりながら、その一方で、自分が2次試験で身につけた会計・法律・経済
・経営に関する知識を活用することで、「先生」と呼ばれることに対して面目を保っていけばいいじゃないか。

このことは後でもう一度ふれますが、受験生時代の猛烈な勉強は、決してムダではありません。
その点については大いに自信を持って現場に臨めばいいのです。


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