公認会計士物語 > 第04章 新人時代のジレンマ> 地方出張の期待と不安

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地方出張の期待と不安

監査の現場にはじめて出てから半年ほど経った頃、最初の出張の仕事が入ってきました。
場所は四国です。
四国といえば「讃岐うどんと坂本竜馬」くらいの知識しか持ち合わせていませんでしたが、
ほとんど関東圏を出たことのない私にとっては、見知らぬ土地への期待でうきうきしていました。

当然飛行機に乗るのですが、これが私には生まれて初めての経験になります。
実は、当時の私は、どうしても「あの鉄の塊が空に浮いているのは信じがたい!」
という気持ちを変えることができませんでした。
だから、好奇心で飛行機には乗ってみたかったのですが、非常に恐怖心があったのも事実です。

しかし、監査人というのは、本当によく飛行機に乗る仕事だなあ、と当時は非常に感心しました。
多い時で、1ヶ月に3回くらい乗ったりしました。もちろんそれは地方出張が多いせいで、
やはり上場企業ともなると、全国津々浦々に支店や工場があるのですから、
当然そちらへ出向いて、きちんと会計業務が行われているかチェックしに行かなければならないのです。
おかげで、羽田空港と東京モノレールにはずいぶんとお世話になりました。

ある程度ベテランの公認会計士になると、出張は面倒になるようですが、
新人の会計士補にとっては、見るものや聞くもの全てが新鮮で、土地の美味いものは食べられるわ、
それでいて出張手当は出るわで、いいことずくめでした。

これは後で判明したのですが、監査法人に入所した頃は、健康診断でこれといって問題がなかったのに、
入所して3年目くらいから、血液検査の結果、コレステロールや中性脂肪、
それに肝機能を表すγ-GTPという数値がやたらと高くなってきました。
体重も、65㎏から75㎏まで増え、こりゃあさすがにやばいぞ、と危機感を覚えました
(参考までに、現在は入所時に戻っています)。

その原因の一端が、出張でカロリーの高いものを食べまくったことにあることは明白でした。
なお悪いことに、私の所属していた監査チームは4人ですが、
私を除く3人が50歳代で食事を控えていたため、何かとすぐ「柴山君は若いから、
俺たちの分もどんどん食べてよ!」といわれ、私も勢いから「ごっつあんです!」などと
調子に乗って残らず平らげていたものです。

入所4年目の頃には、真面目に、「このままでは成人病3大疾患コースまっしぐらではないか」
と危機感を覚えていました。
ここまで読むと、「美味いもん食いすぎて成人病が心配、というのが地方出張の不安かいな」
と立腹されるかもしれません。たしかに個人的にはそれも少しあったのですが、仕事面での不安は、
何と言っても「最終日の講評会」でした。

たとえば、4泊5日の予定で月曜日に事業所へ行ったとしましょう。
その週は監査のため、いろいろと調べるのですが、その結果をまとめて、
最終日である金曜日の午後4時とかそれくらいの時間に、事業所の経理関係者を集めて、
「講評」するのです。具体的には、監査で発見された問題点や改善すべき点などについて
担当分野ごとに発表していくわけです。

これは緊張しますよ!場合によっては、30人くらいの会社関係者がずらりと並び、
それらを前にして、有名人の記者会見さながらに、1人ずつ監査人として結果報告をするのですから。
ここで、うっかり特定の会社担当者にとって都合の悪いことを口走ろうものなら、
強烈な抵抗にあって、ぼこぼこに反撃されてしまうこともあります。

また、専門家としての適切なアドバイスが聞けるだろう、と皆が期待しているものですから、
1週間して何も指摘ができなかったりすると、「1週間も専門家の方が見たんだから、
何か1つくらい指摘して頂かないとねえ…」と皮肉が飛んでくることもあります。

しかし、いい面もあります。たしかにこの最終日の講評会は、かなりのプレッシャーがかかり、
非常に憂鬱ですが、今思うと、あれは人前で自分の考えを要領よく話す
格好の訓練になっていたことに気付きます。また、何か指摘できることを真剣に探そうとすれば、
自分なりに会社の業務や会計監査の基礎理論について深く研究することになり、
結局は自分の知識や経験が多く身に付くのです。

そんな、いろいろな教訓を与えてくれる地方出張は、私にとって貴重な社会経験および実務経験の場でした。


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