公認会計士物語 > 第06章 個人会計事務所の理想と現実> 大掃除の日とベンツ

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大掃除の日とベンツ

個人会計事務所に入ってから4ヶ月が経った頃、事務所の年末大掃除がありました。
その日は朝から、副所長の決めた分担に従い、せっせと床そうじや書棚の整理など、
日頃の汚れをやっきになって落としていました。
私の分担は、パソコンの周辺の掃除と窓拭きです。
冬とはいえ、力を込めて雑巾がけをしていると、だんだん体があったかくなってきます。
ついには、Yシャツを肘のところまで腕まくりして窓を拭いていました。

昼近くになった頃、1階の窓がきれいになったので、2回のベランダ側の大窓をごしごし拭きはじめました。
その時、自分が社会人になって、これがはじめての事務所の掃除であることに、はたと気付きました。
監査法人時代は、ビルの清掃会社に全て任せていたわけですから、職員だったわたしは、
会社の中で雑巾やモップをもつことは全くありませんでした。そういった意味では、楽だったんですね。

「年末に 1人窓拭く 会計士」

ほこりにまみれながら、笑えない俳句をつぶやいたりしていた自分がちょっと虚しかったです。
すると、事務所の前に見知らぬベンツが突然近づいてきました。

「こんな日にお客様かな?」
来客があるとは全く聞いてなかったので、ちょっと変な感じがしました。
少し遅れて、所長が玄関口からにこやかに笑いながら出てきました。
「どうもご苦労様。いい車ね」
車の中から、自動車会社の営業マンらしき人が出てきて、何やら話し合っています。
「何、あれ?」
私が訪ねると、税理士試験を受験中のO君が教えてくれました。
「所長の新しい車みたいですよ。買い換えたんですかねえ」
その新車は、渋い光沢を放ちながら、重厚な存在感を示していました。
「うーん、うらやましい!職員が大掃除でふうふう言っている時に新車の購入とは…やっぱり、早く経営者にならねば!」

あまり格好の良い動機ではありませんでしたが、その時、ますます独立開業への思いを強くしたのは、紛れもない事実でした。


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