専門家たる前に社会人たれ!
新人の頃、上司の先生に何度も聞かさせた言葉は、「専門家たるまえに社会人たれ!」でした。
わたしの最初の上司だったN先生は、とてもユニークなキャリアの持ち主で、
大学卒業後は長らく営業畑を歩いていました。
公認会計士2次試験を受験したのは30歳半ばだったそうです。
合格後は個人の税務事務所にも勤め、様々な会社経験をされていました。
そのためもあってか、確かに他の公認会計士の方々とは、雰囲気が違ったのです。
一番に目を引いたのは、何と言っても胸ポケットのハンケチです。きちんと3つに折って、
行儀良くポケットの上から顔がのぞいていました。
さらに、(本来なら当たり前なのでしょうが)スーツは常にパリッとしていて、
ズボンには折り目がついています。背広もしわになっていません。
当然、ワイシャツの腕にも折り目がつけられ、袖のカフスポタンがきらりと光っています。
そういえば、靴も常にピカピカでした。
もちろん、他の公認会計士がダサい、といっているわけではありません。お洒落な人もいっぱいいます。
ただ、どちらかというと「相手に対してどう自分を演出するか」というテーマには、
それほど強い関心を持っていないのが、平均的な公認会計士の意識だと思います。
その中にあって、「ビジネスマンとして、仕事の相手に自分をどう良く見せるか」ということを強く
意識されているのが、そういうことに鈍感な私でさえ気付くほど、体全体で表現されていました。
N先生が「社会人たれ」というのは、主に次のような理由からでした。
① ビジネスには、お互いの信頼関係が大事である。それには、必要最小限の約束事を守り、
相手から信用されるようにならなければならない。
② 人から「先生」と呼ばれることに慣れてしまうと、いきおい自分を何か偉い者のように
勘違いしてしまいがちである。人間、たとえ無意識にであっても、
慢心した時点で進歩が止まってしまう。そこで、専門家である前に、
ただの1社会人であることを強く自覚することで、常に謙虚さを失わないことが大切となる。
③ 一般の企業に勤める社会人の方たちと比べて、きちんとビジネス・マナーを学ぶチャンスが
極めて少ない。だから、より一層強い意識を持って自発的に身に付けないと、世間ずれした人間として、
ずっと年を重ねてしまう危険がある。
たしかにそのとおりです。これはうわさ話なので真偽のほどは不明ですが、
こんなことがあったそうです。
ある時、公認会計士2次試験に合格したばかりの会計士補が、監査先の会議室で作業をしていました。
ちょうど入口に背を向ける形で椅子に座っていました。
そこへ、新任の経理担当の方が、初対面のあいさつにやってきたのです。
「はじめまして、〇〇です。今後ともよろしくお願いいたします。」
そういって、名刺を差し出そうとしたのですが、当の会計士補君は振り向きもせず、
背中越しに名刺を受取り、あいさつもそこそこに作業を黙々と続けていたそうです。
ここまでひどくはないにしても、たとえばクライアント(得意先)に社外文書として郵便物を送るときの
宛名であるとか、同封する書類送付の案内文の書き方とか、
あるいは月曜の朝一番に電話を掛けるのは朝礼などの妨げにならないよう原則として遠慮するとか、
相手に失礼のないような行動を求められることが多々あります。
これは、各自の意識の問題で、良くも悪くもなるものです。もっと言うなら、監査という仕事は、
相手の協力がないと全く成り立たないものです。
たとえば、頼んだ資料をすぐに出してくれなかったり、重要な事実をわざと教えてくれなかったり
されると、仕事に大きな支障をきたしますし、日程だって、
相手がなかなかこちらの都合にあわせてくれない時などは、スケジュール調整に苦労します。
これも、相手との信頼関係のあるなしで天と地ほども変わってきますので、
やはり、お互い気持ちよく仕事を進めていくうえで、
社会人としてのマナーは意識して身に付けなければなりません。
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