監査の現場はノウハウの宝庫
2007年11月22日
公認会計士の監査の対象となるのは、たいていが大企業です。
したがって、お邪魔する会社の規模が大きいため、当然のこととして、
日常的にさまざまな出来事が起こります。
何億円もするような製品の販売、新規の取引相手に対して行う信用調査、株や債券などの有価証券の
売買、不動産の譲渡や賃貸借、会社の合併、取引先の倒産による売上代金の貸倒れ、
はたまた従業員による会社のお金の使い込み、などなど、数え上げたらきりがありません。
監査人は、これらさまざまな企業活動にかかる生の資料を、監査業務の過程で見ることができます。
これは、とても貴重なノウハウなのです。
実際のところ、あちこちの会社に行くと、次のような質問をよく受けます。
「我が社の業務レベルは、他社に比べて、どの程度なのでしょう?」
「このような取引は、当社では全く初めてのことなのですが、他の会社ではどのように
対処しているのでしょうか?」
つまり、1つの会社の中にいると、いきおい世界がその中に限られてしまうため、
他との比較がなかなかできません。そこで、いろいろな会社の実務に接して、
豊富な知識を持つ公認会計士に、アドバイスを求めたくなるのでしょう。
こういった、クライアントの方々のニーズに直面した時に、「ああ、会計士って、面白い商売だなあ!」と強く実感します。
そして、普段の監査の現場でいろいろな問題点にぶつかった時こそ、
「ここで苦労したことは、今後の自分のキャリアにとって、かならず血となり肉となるものなんだ」
と自分に言い聞かせ、真剣に取り組む事が大事です。
なお、私の経験では、どちらかというと、成功談より失敗談の方が、人はやや興味を強く持って
聞いてくれるみたいです。
「人生、いたる所に師あり」
これは、N先生から教えてもらった言葉です。
「監査先、いたる所にノウハウあり」
こう言えるのは、公認会計士だけの特権ですね。
実地調査
2007年11月21日
監査人は、大企業の公表する財務諸表が適正に会社の財務状況を反映していることを、
専門家としての目で確かめ、監査証明の形で世間に示すことをその業務の最終目的としています。
ここで、会社の財務状況というのは、簡単に言うと、主に次の2つの内容を指します。
1.決算日までの1年間で、稼いだ利益の計算過程(売上-費用など)
2.決算日現在における、会社の財産の状況
したがって、監査人である公認会計士は、「利益の計算過程が正しいこと」、
および「決算日現在で会社の保有する財産が正しく表示されていること」を中心に、
検証する必要があります。
このような目的の監査は、通常決算日以降に行われ、「期末監査」などと呼ばれています。
(これに対し、前項の「監査手続の一例」のところで紹介した、「入金・出金記録の正確性」を
検証するような手続を、「期中監査」と呼びます。)
たとえば、企業が決算日に保有している財産は、監査人が直接会社にお邪魔して、
現物を実際に確認できれば、これ以上の確実な検証方法はありませんよね。
このように、財産の現物を、監査人自らの目で数え、帳簿の金額と一致していることを確かめる
監査手続を「実査」といいます。実査は、いわば財産の実地調査なのです。
この実査という手続自体は比較的かんたんなので、2次試験に受かったばかりの会計士補が
担当することが多いのです。わたしも、新人の頃、会社の決算日には、業務時間終了と同時に、
経理担当の方と一緒になって、現金や株券の数をよく数えたものです。
場合によっては、1千万円以上の現金を数えたりすることもあるので、
ふだん小銭しか持ち合わせていない身としては、ずいぶんと緊張したことを、
今でもはっきりと覚えています。
監査手続の一例
2007年11月20日
ここでひとつ、私たち監査人がクライアントの会計帳簿をどのように監査するのか、
その手続を簡単な例でご紹介しましょう。
一般に、会社の通常の業務時間は朝9時から夕方6時くらいまでの間となります。
監査人は、そのあたりを考慮して、クライアントにお邪魔する時間をだいたい9時半から5時半までと
設定することが多いですね。
なぜなら、始業時間の9時ちょうどに行っても、会社の方で監査の受入れ体制がまだ整っていないですし、
また、終業時間ぎりぎりまでいると、その後、帳簿の片付けなど、会社の人の後始末が業務時間より
遅くなり、かえって迷惑をかけてしまうからです。
さて、それでは実際に、朝9時半にクライアントの会議室に到着したとしましょう。
だいたい、1チーム3人~5人くらいの人数です。
まずは、会社の担当のお姉さんが出してくれるお茶を飲んで、一息入れます。
そして、主査という、現場のまとめ役の公認会計士が、その日の各監査人の担当業務を割り振ります。
通常は、次のような分担表を作って担当業務を明らかにします。
業務分担表
会社名:〇×株式会社(3月決算)
往査日:11月21日~23日
関与社員 公認会計士 会計士補
項 目 A B C D E F 備 考
現金預金 〇
受取手形 〇
売 上 高 〇
仕 入 高 〇
このように、現金預金、受取手形、売上高や仕入高など、取引項目ごとに監査手続の担当者を決めます。
往査日とは、監査に伺う日のことです。
ここでは、1年の途中で、会社の会計業務が適正に行われていることのチェックをする目的で
監査に行く、という状況を想定しておきます。
なお、「関与社員」というのは、そのクライアントに関与し、その財務諸表が適正であるかどうかにつき
監査証明を行い、サインをする責任者のことをいいます。
社員とは、監査法人という会社における役員のことなんだ、と考えていただければよいでしょう。
さて、それでは次に、現金預金の項目を担当する、会計士補Eさんの監査手続を例にとって、
簡単に監査業務の内容を見ていきましょう。
現金預金のような財産項目については、監査を行う上で、次の3つが重要なポイントとなります。
1.会社の帳簿に書かれている現金の残高は、本当に「実在」するか?
2.会社の入金取引は、「正しく」帳簿に記録されているか?
3.会社の出勤取引は、「正しく」帳簿に記帳されているか?
1.のようなポイントを資産の「実在性」といいます。
2.や3.のようなポイントを記録の「正確性」といいます。
Eさんはまず、会社の経理担当者から、前月における1ヵ月の全ての取引を集計した「試算表」という表のコピーをもらいます。
試 算 表 No.10
〇×株式会社 作成日:11月8日
10月1日~31日
(単位:円)
項 目 前月残高 借 方 貸 方 当月残高
現 金 40
月における1ヶ月間の現金の動き>
月初40,000+入金合計300,000-出金合計250,000=月末90,000
⇒ 10月の末日現在で、金庫の中に現金が90,000円あった。
そこで、さっき挙げた監査の3つのポイントをもう一度思い出してみましょう。
1.10月31日現在の現金90,000円は、実在するか? (実在性)
2.入金額300,000円は、取引を正しく記録したものか? (正確性)
3.出金額250,000円は、取引を正しく記録したものか? (正確性)
実在性というのは、通常、決算日(1年の最後の日)現在における財産が実際にあるかという点が
重要になるので、これは3月31日などの決算日に確かめにくることが原則となります。
したがって、1年の途中で行う監査の時は、もっぱら2.と3.の「正確性」を重点的に検証します。
ここでは、さしあたり出金記録の正確性に関するチェックのやり方について、具体例をご紹介しましょう。
<出金記録の正確性のチェック例>
(1) 会社の人から現金の出納帳を借りて、10月出金記録の合計額が、
試算表の貸方250,000円と一致することを確認する。
(※帳簿記録の合計が、試算表に集計できていることを確かめる。)
(2) 現金の出納帳から、1件別に出金記録を「監査調書」という手続用の専用紙に書き出して、
領収書などの証拠資料と、金額や支出内容を付き合わせる。
(※帳簿記録が、証拠資料により裏付けられていることを確かめる。)
<監査調書の記載例(便宜上、一部の表記をわかりやすくしています)>
出金取引の検証 No.20
〇×株式会社 科目:現 金
11月21日 担当者: E
<資料:現金出納帳>
日 付 取引内容 金 額 照合
10月 2日 事務用品代 80,000 ν (ν…領収書と照合)
10日 交通費 20,000 ν
18日 光熱費 50,000 ν
25日 広告宣伝費 100,000 ν
合 計 250,000 ←(№10前ページ)と一致
結論:上記手続の結果、出金記録はすべて証拠資料と照合され、
合計額は正しく試算表に転記されていることが確認された。
上記のように、帳簿に記載されている取引の金額が、領収書などの証拠資料と
全て突き合わせることができればオーケーです。もしも、帳簿記載の金額と領収書の金額が
違っていたり、一部領収書が紛失されていたりしたら、それは会社の内部管理に問題ありとして、
監査調書に事実を詳しく書かなければなりません。
まあ、そういうことはめったにありませんが…
2次試験の知識は役に立つか?
2007年11月19日
公認会計士2次試験は、100人のうち6人~7人くらいしか合格しない難関試験ですから、
当然、これを突破するためにかなりの勉強をします。
そうして苦労して身に付けた知識や理論が、実際の監査業務やコンサルティング業務に、
どれくらい役立つのか、これから受験しようとしている方には少なからず興味があることと思います。
私は、2次試験合格後、監査法人に就職しましたので、
まずは監査の現場でいろいろな場面に出くわしました。
そこで、私が上司や監査先の担当者から質問を受けた事項の一例を、ここに挙げてみましょう。
「柴山君、改正後の商法では、この規定はどうなっているんだい?」
「柴山先生、我が社が先日行った取引の会計処理について、ひとつ、相談があるのですが……」
「先生、我が社の内部管理のシステムについて、監査の理論に照らして、
何か問題点があったら教えていただけないでしょうか?」
「今年の会計基準の改正で、当社が、財務諸表の作成に当たって
注意しなければならないポイントは何でしょうか?」
ほかにも、例をあげればきりがないのですが、上記の質問の内容をよく見てみると、
どれも2次試験の受験勉強の過程で身に付けてきた知識の範囲内のことを
尋ねられているに過ぎないことに気付きます。
もちろん、中には、より専門的なことについて聞かれ、調べるのに苦労した経験も多々ありますが、
新人時代に質問された知識のだいたい3割以上は、2次試験の勉強で得た知識の範囲内だった
ように思います。
また、独立後にコンサルティング的なことをときどき仕事としてやることもありますが、
そのさい、経営学の受験対策で学んだ知識がベースとしてあったおかげで、
より専門的な研究書を読んだり、クライアントへの提案を行ったりするに当たっても、
ずいぶんと助かりました。
つまり、2次試験で得た知識と情報収集のノウハウは、いろいろな場面で役立っています。
たしかに、受験生時代には大変な苦労をして勉強しますが、その時に得たものは、
思った以上に実務で効力を発揮しますので、「すべては合格してからも血となり肉となるんだ!」と、
前向きな気持ちを持って学習に取り組んでいただければ良いと思います。
クライアントとの関係
2007年11月18日
資本金が5億円以上の大会社や、株式を公開している企業などは財務諸表を公表するに当たり、
商法・証券取引法といった法律によって、公認会計士の監査証明を受けなければなりません。
これは、大企業のように影響力の大きい存在が発信する重要な公の情報、
すなわち財務諸表が真実を表していないとすれば、それは多大な社会的損失になるので、
大企業に限ってはその財務諸表に信頼性を持たせるため、
専門知識を有する第三者のチェックを必要とするからです。
話は変わりますが、私たち監査人は、監査契約を結んだ企業のことを「クライアント」と呼びます。
つまり、「顧客」という意識が心のどこかにあるんですね。
具体的にいうと、3月決算の大企業ならば、6月に株主総会という事業年度の最終報告会議を行い、
株主総会が無事終了すれば監査業務も一段落します。
したがって、7月が新事業年度の監査契約のスタートとなります。
監査人は、監査契約に基づき、向こう一年間の監査計画を立て、監査を実施します。
そして、公認会計士の行う監査業務に対し、クライアントが監査報酬を支払うのです。
クライアント 監 査 人
報 酬
<監査契約>
監査業務
(公認会計士)
ここで、報酬をもらっている立場にあると、クライアントに対して厳しい態度で監査を実施することが
難しくなるのではないか、という疑問がわいてきます。
いわゆる「癒着(ゆちゃく)の関係」になりはしないか、という問題です。
この点、ある会社を担当する監査人が、第三者の公認会計士などから監査業務について
審査を受ける制度がありますし、万が一会社の不正を意図的に見逃したりした場合には、
「規律規定」に照らして公認会計士協会などから罰則を課されることになり、様々な角度から、
「馴れ合いの監査」にならないような仕組みが作られています。
また、最近は、社会の公認会計士に対する見方が厳しくなってきていることから、
ますます公認会計士業界全体に、自らを厳しく律するような意識が根付いてきています。
さらに、現場で監査業務を行っている立場からすると、クライアントは、
基本的に公認会計士の専門家としての指導をおおいに望んでおり、理不尽な要求をつきつける、
ということは現実問題、めったにあるものではないのです。
したがって、ニュースに取り上げられるような、何千分の一かの異例な事件はともかく、
たいていの場合は、世間で心配されるような癒着に陥らないよう、業界を挙げて厳しい態度で
監査業務に臨んでいます。
Powered by
Movable Type 3.33-ja